精神科医を効果的に利用する方法(続編)

精神科医が教える精神科医を効果的に利用する5つの方法(続編)

 

それでは、前回に引き続き、核心となる、【目次】の4.以降について書きます。

まだ、1.~3.を読まれていない場合は、まずはそちらからお読みいただくことをお勧めします。

 

【目次】

1.はじめに

2.一番大切なこと

3.基本的なこと

4.精神科医が得意とする5つの能力とその利用方法

  【精神科医が得意とする5つの能力】

  ①情報を収集して、整理する能力             

  ②情報を元に、診断し今後の解決策を立案する能力          

  ③専門知識を一般の人にできるだけわかりやすく説明する能力

  ④患者さん周囲の人に支援、協力を依頼する調整能力        

  ⑤問題解決能力                                         

  

             上記の各能力ごとに以下を解説

             (1)この能力を最大限に利用するための方法

             (2)精神科医からこの能力を引き出す為の質問例

             (3)説明

5.最後に

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4.精神科医が得意とする5つの能力とその利用方法

【精神科医が得意とする5つの能力】

①情報を収集して、整理する能力             

②情報を元に、診断し今後の解決策を立案する能力          

③専門知識を一般の人にできるだけわかりやすく説明する能力

④患者さん周囲の人に支援、協力を依頼する調整能力        

⑤問題解決能力

それでは、これら5つの能力について順番にお伝えし、

精神科医を効果的に利用するために必要な事を書いてみます。

 

①   情報を収集して、整理する能力

精神科医を利用して、患者さんの情報を引き出してもらい現状を整理し、患者さんの中で起こっていることを明確にしてもらう。また、患者さん本人が気づいていないが重要であることを引き出してもらう。

(1)これを最大限に利用するためにお勧めしたいこと

そのためには、患者さんおよびご家族はできるだけ,精神科医を信頼して正直に全てを話すのが良いでしょう。この時、論理性とかをあまり意識しなくても大丈夫です。事実が漏れなく、自分の言葉で伝えられることが重要です。

事前に可能な限り自分で整理してメモなどにまとめておけば、精神科医もポイント絞った診察ができ診察時間が短縮できます。

ダラダラと診察時間が延びることは、患者さんおよびご家族、精神科医の集中力も低下するので良くないです。(もし、先生の方から説明がない場合は、以下のように聞いてみて下さい)

(2)精神科医からこの能力を引き出す為の質問例

「今、精神的には、どのような状況にあるかを知りたいと思います。先生はどのようにお考えになりますか?」

「また、できましたら原因も知りたいと思います。先生はどのようにお考えになりますか?」

(3)説明

自分のことは、自分が一番よくわかっているようですが、実はそうではありません。特に、落ち込んだり、悩んでいる時には、一般にIQが低下していることもあり、よくわからないことが多いようです。

抑うつ気分、不安焦燥感、など精神的に辛い状況になると脳の機能が低下し、現状をうまく把握することが困難となります。記憶力、判断力、物事を整理する力が落ち、患者さん自身で現状を理解することが困難になることが多いようです。

このような場合でも、患者さんはただ精神科医の質問に答えることに

専念することで、精神科医がそれらを材料として、徐々に全体像、ストーリーを形作ってくれるというイメージを持つとわかりやすいかもしれません。

自分の中に何か抑圧したいものがある場合、自分では気づきませんが、客観的にみると、辻褄が合わないということで浮き彫りになることがあります。

十分な情報が得られれば、現在の状況に至った原因がわかり、診断が正しくつきます。

ここまでできれば、多くののケースでは、対応方法がみつかるものです。あとは、治療方針に沿って治療に専念すればよいのです。

もし、その病院で対応できないことが分かっても、方針さえ立てば、対応できる病院へ紹介してもらうこともできます。

 

逆に、全てのスタートである、ここの作業ができなければ、正しく診断されず、よって正しい治療法に結びつけることができません。その間、患者さんの辛い状態が続くことになります。

 

②   情報を元に、診断し今後の解決策を立案する能力

精神科医を利用して 患者さんについて整理された情報を元に、診断と治療方針を立ててもらう。

(1)これを最大限に利用するためにお勧めしたいこと

①と重なりますが、患者さんおよびご家族はできるだけ,精神科医を信頼して正直に全てを話すのが良いでしょう。(もし、先生の方から説明がない場合は、以下のように聞いてみて下さい)

(2)精神科医からこの能力を引き出す為の質問例

「今、精神的には、どのような状況にあるかを知りたいと思います。先生はどのようにお考えになりますか?(①と同じです)」「今の私(または、家族に)にできる、解決策も知りたいと思います。先生はどのようにお考えになりますか?」

(3)説明

精神科医は、患者さんの話す1つのエピソードから可能性のある診断をいつくか想定し、その場合に起こりうる他の症状の有無を患者さんに確認しながら、可能性のある診断について一つ一つ、吟味していきます。

また、症状自体0か100かといったものではなく、その中間のグレーな部分もありますから、より評価が難しくなります。これは、精神疾患全体を理解しておらず、実際にその症状をみたことのない一般の人にはほとんど不可能です。

せいぜい疑わしい疾患のチェックリストを本やインターネットで調べ、そのうちいくつ当てはまるかを確認して、どうなんだろうと不安に思うくらいです。

心配になるようでしたら、早目に精神科を受診することをお勧めします。

 

③   専門知識を一般の人にできるだけわかりやすく説明する能力

精神科医を利用して、治療法(精神療法、薬物療法)などの専門知識について詳細にわかりやすく説明をしてもらう。

(1)これを最大限に利用するためにお勧めしたいこと

わかりにくいところは、しつこく質問しましょう。一方的に話されることをただ聞いていると、十分に理解されていると思われ話がドンドン進んでいきます。物分りの良い患者になる必要はありません。

説明を受けているときは、自分が具体的に実行する場面を思い浮かべながら、問題意識を持ちながら聞くと良いかもしれません。

音で聞いただけではわかりにくかったり、間違って理解することもありますので、紙に書いてもらいながら説明を受けるとなお良いでしょう。話の内容を忘れそうだと思ったら、メモを取リましょう。

診察終了後、疑問に思ったことがあったら、次回診察予定日まで待つ必要はありません。その都度、外来に電話して確認しましょう。

もし、時間がかかりそうだと思う場合は、事前にその旨を伝えると、時間の取れる予定を教えてくれると思います(または、そのようにお願いしましょう)。

 

(2)精神科医からこの能力を引き出す為の質問例

「私は医学的なことは、あまりわかりません。しかも、(他の)家族へも説明したいと思いますので、できるだけ一般的な言葉で説明をお願いできますでしょうか?」

(3)説明

現在、精神医療の分野においても、インターネットなどを利用することで簡単に多くの情報にアクセスすることが可能です。しかし情報自体は多すぎるくらいです。

はっきり言って、莫大な量の実際には関係のない情報が氾濫し、数ある情報の中から自分に適切なものを短い時間で取り出すことはかなり困難な状況です。真偽の判断も容易ではありません。

今後、この傾向はさらに進むと思われます。

 

単に、時間がかかるということではなく、その関係ない情報にアクセスした為に、不必要に不安になることがあります。また、調べる事自体エネルギーを要することでもあります。こうしたとから症状が悪化することも少なくありません。ですから、疑問がある時は、なるべく専門家を利用して情報を入手しましょう。専門家は、実際の経験に裏打ちされた“使える”情報を持っています。

患者さんの状況を十分に理解した主治医なら、患者さんおよびご家族がまさに必要とする情報をタイムリーに提供することができます。

 

④   患者さん周囲の人に支援、協力を依頼する調整能力

精神科医を利用して患者さんの治療が効果的に進むよう治療環境の調整をお願いする。

(1)これを最大限に利用するためにお勧めしたいこと

可能な限り、患者さんおよびご家族に頑張ってもらいたいと思いますが、困難な場合は、なるべく早く、全面的に精神科医にお願いしてください。

(2)精神科医からこの能力を引き出す為の質問例

「自分でも、周囲の人に説明して、協力をお願いしてみますが難しい時は、先生の方からも説明していただけるでしょうか?」

(3)説明

症状の原因が、家族や職場などの周囲の環境にある場合や、治療を進める上で、周囲の理解や協力が必要な場合があります。

その場合は、環境の調整を適切に行うことにより治療効果が高まります。

患者さんおよびご家族が、診察の内容を周囲に伝え、環境を調整しようとしても、周囲の人たちに十分に伝わるとは限らず、かえって疑問が生じてしまい、上手く協力が得られない事があります。

しかし、精神科医が直接働きかける場合、疑問が生じてもすぐに説明できたり、そこから新しいアイディアを出したり、建設的に進めることができるので、比較的短期間で、納得の上協力してもらえることが多いです。

職場の環境調整については、精神科医が直接職場の上司と面談し、職場での状況を聞くことで、より適切な判断ができ、適切な対応を示すことができます。これにより職場側も理解を示すことが多いです。

 

自分で環境調整ができない時、その旨を主治医に伝えないと、主治医によっては、環境が調整中であるものと思い込み、経過をみようと判断しそのままになることも多いです。(その都度、主治医の方から状況を聞いてくることもありますが、必ずしもそうではないようです。)

自分で上手く対応できない場合は、積極的にその結果を主治医に伝え、状況改善へのアドバイスをもらいましょう。

 

⑤問題解決能力

精神科医を利用して治療を進めていく上で生じる様々な問題に対してアドバイスを受ける。

(1)これを最大限に利用するためにお勧めしたいこと

治療方針に従って、服薬、日々の対応その他を確実にこなすことが必要です。それによって生じた結果について相談しアドバイスを受けましょう。(行動できない場合は、早めにその状況を正直に伝え、実行可能な対応方法についてアドバイスを受けましょう。)

(2)精神科医からこの能力を引き出す為の質問方法

「先生の指示に従い、○○を行いましたが、△△という結果になりました。(まずは、結果報告をすることです。悪い結果になっても正直に。)次は、どうすればよろしいでしょうか?」

やろうとしてできない場合や、先生の指示と違うことをした場合(例 服薬の仕方を変えて、減らした等)も、結果の一つですから、躊躇せずそのまま報告してください)

(このように対応しても、キチンと対応してもらえない場合は、残念ですが、転医を考えることも必要かもしれません。(下記(3)★参照))

患者さんの側から、こうした質問を早期にすることは、的確な判断が早くできることにつながります。

常に、“受診の度に判断する”くらいの覚悟で受診するのが良いと思います。

 

(3)説明

精神科医は、これまで何例もの同様の症例を経験し、その場合の問題点も数多く対応してきています。予め、それらの経験談を教えてもらうのもよいかもしれません。

物事がうまく進まない時、次の作戦を考える事が精神科医の大事な仕事ですが、ここでは、それまでの行動をもとに原因を考え、それを解決する方法を考えるというのが一般的です。

この時、精神科医の指示に従って、それでもうまくいかなかった場合は、それまでの行動が明確ですので、その後の対策を立てるのが容易です。

このように、仮にうまくいかなかったとしても、それまでの経験が役に立つため、無駄にはなりません。

しかし、精神科医の指示と異なることを、患者さんまたはご家族の判断でしていた場合、ほとんど一からのやり直しとなり、それまでの経験が無駄になってしまいます。その行動がきちんと日記などに記載され、後から見直すことができる場合でさえ、不十分な知識や仮説に基づいてなされることが多いため、その経験は無駄になってしまうこともあります。

ですので、一番理想的なのは、主治医の指示に従うことです。途中、何か問題が出るなど、継続できない状態になったら、その時点で、主治医に確認の電話を入れ指示をもらいましょう。

主治医と一心同体となって、治療に当たるイメージです。

 

★転医を検討する必要がある場合について

やろうとしてできない場合や、先生の指示と違うことをした時に、一方的に「なぜできないんだろう、とにかくやりなさい!」「とにかく言われた通りやればいいのです!」 のように言うだけで、具体的な対応方法について相談に応じてくれず、症状が改善しない場合は、非常に残念ですが、別の病院を探すこと(転医)を検討すべきかもしれません。

その場合は、その場では、転医については触れず、家に帰ってから、できればご家族の方ともよく相談した上で、

次の病院を探し、電話で、受付の方に次のように伝えて下さい。(この時、次の病院の次回受診日を確認しておきましょう。そして、その日までに紹介状の作成をお願いします。)

「(家族といろいろと相談した結果)他の病院で診察してもらうことになりました。つきましては、○月○日までに紹介状をお願いします。」

これは、直接主治医へ面と向かって話すよりは、格段に気は楽です。しかも、受付ですので、詳しい理由は不要です。(カッコ内の“家族といろいろと相談した結果”という文言は不要かもしれません。)

(それでも、ハードルが高い場合は、ご家族にお願いして電話してもらいましょう。詳しい説明は不要ですので、ご家族でも対応可能です。)

そして、紹介状は出来上がったと連絡があったら取りに行き、次の病院を受診すればいいです。

これまで見てきた患者さんの中には、主治医に対する遠慮から転医の話を切り出すことができず、転医したい気持ちを持ちながら何年も通い続けている方が結構いらっしゃいました。

※ ポイントは、電話で、受付に必要なことを伝えるだけです。

(注)最終診察日から、紹介状の依頼までの間に時間がたちすぎると、病院によっては、紹介状作成のために診察が必要と言われることがあります。(前医の責任として、最近の情報を記載するためとして)

ですので、あまり時間を置かないことをお勧めします。(目安として、1か月程度なら診察なしでOKと思います。)

 

【転医の場合の紹介状について】

これまでの治療経過の情報を有効に利用するため、医者同士の連携を保つためにも、紹介状をもらうことが必要です(病院によっては、これを必須とするところから、なくてもよいとするところまであります。

一般的に、きちんとした診療をするところは、これまでの治療経過がわかった方がより精度の高い診療ができるので、これを要求することが多いようです。)

 

 5.最後に

いかがでしたでしょうか?

「既にやっていた」項目があるかもしれません。それでも効果が出ていないようでしたら、残りの項目も試してみることをお勧めします。

一方で「そうしたい気持ちはあったけど、なかなか実行できなかった」とか「こんなこと聞いていいの?」と驚く方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ここで書いた質問や対応は、どれもありふれた一般的なものです。これまで聞いたことがない というものは一つもないはずです。

でも、ここで書いたことを実行しよういう気持ちになった瞬間に、まずは、患者さん(ご家族)の治療に対する態度が変わります。それによって、先生の態度もより積極的なものに変わるかもしれません。

みな同じ人間ですから。

この中で、どれか一つでもいいので、できそうなことありましたら是非やってみて下さい。

何らかの気づきや変化があるかもしれません。

 

精神科通院中の方、または、精神科受診を考えている方は、

是非、参考にしてくださいね。

 

みなさんがより積極的に治療と取り組まれて、精神科医の本来持っている能力がより発揮されて、良い結果となりますよう願っています。

 

精神科医 阿部正人