今回は、「妄想のある方への接し方」(3回シリーズ)の3回目(最終回)です。
・第3回目 実際の対応例
実際にご家族の対応例についていくつかお伝えします。
①妄想内容への意見や同意を求められた場合の対応
話の内容が明らかに妄想的である場合、いろいろと意見やアドバイスをしたくなりますが、それをすると、本人は自分が否定された、受け入れてもらえないと感じ、心を閉ざしてしまうことが多いです。
“自分にはよくわからないけど、話をよく聞いて理解したい”という態度を貫きましょう。その上で「あなたが、そのように理解して辛い気持ちになっている」ということを“私は理解している”ということを伝えるようにしましょう。
自分の話を聞いてもらえていると実感でき、さらには、理解されているという感じが持てれば、相手は大分楽になります。(人は誰にも理解されないという感覚ほど辛いものはありません。)
その状態で、相手の人も、自分で話した言葉を自分で聞くことで、頭の中が少しずつ整理されてくることも期待できます。
②相手が感情的になった場合の対応
つい、「大丈夫,大丈夫」とか、「気にしないで」と言ってその場をおさめようとしてしまいがちですが、これも控えた方がいいようです。
いくら大丈夫と思える根拠があったとしても、理解されないので全く効果がありませんし、話を早く切り上げようとしていると思われ、大切な信頼関係を失ってしまいかねません。
代わりに、できるだけ、感情を発散させるようにしてみてください。上手く発散できれば、やがて感情はおさまります。「どんな感じなの?」とか、「どこが苦しいの?」と聞いてあげるのもよいでしょう
あくまでも、あなたを理解したいという対応を貫きましょう。感情は波と同じで、押さえつけなければ、やがては自然に消退します(これはとてもエネルギーを要することなので、はじめは難しいかもしれませんが、試してみる価値はあります)。
③相手が何も語ろうとしない場合の対応
そのような場合でも、決して無理に話すように強いることはせずに、「話したくなったらいつでも声をかけてね」と声をかけておくのが良いでしょう。
但し、このような場合は、本人の内面が全くわからないので、表情や行動を慎重に観察することが大切です。その上で、気になることがあったら、その都度、「少し辛そうだけど大丈夫?」などと、本人の状態についてこちらで感じていることを伝えて下さい。
(本人からの反応がない場合、反応がでるのをただ待つのではなく、何かことある毎に気にかけていることを伝えるようにして下さい。)
ご家族、友達には心配をかけまいとする気持ちから、話しにくいことが多いですが、第三者になら話せることもあります。
このようの状態が続く場合は、それとなく精神科受診を勧めてみてください。
④妄想に左右された行動が見られた場合の対応
(1)危険を伴う行動の場合
緊急事態ですので、「あなたの命が大切だから」と伝え、全力で制止して下さい。
(→ご家族だけでの対応は限界ですので、即、専門家受診へつなげて下さい。)
★専門家への橋渡し、精神科医の利用法については、別レポートで詳しく説明します。
専門家への橋渡し→別レポート「精神科医療につなげるために」
精神科医の利用法→別レポート「精神科医を効果的に利用する方法」、「精神科医を効果的に利用する方法」(続編)
(2)危険を伴わない行動の場合
できるだけ本人の考えを尊重し、行動は制限しないようにして下さい。その際、本人にお願いして、行動を共にして下さい。
(これにより、危険の防止、自分を理解してもらえたと思ってもらう(=仲間と思ってもらえる)こと、相手の状態を深く知ることができます-この状態では素の状態になりますから。)
★一度、しっかりと時間をとってこうした対応をすると、一気に信頼関係が深まり、妄想に左右された行動は減ることが多いです。
例.
「〇〇さんが迎えに来ている」と言って、外に出ようとした場合。
「私も一緒にいっていい?」と聞いて一緒に外に出てみましょう。同時にその時の様子(表情、言葉)を観察して下さい。(同伴を拒否された場合は、本人に気づかれないようにこっそり後をつけて観察して下さい-本人の本当の心配事がわかることがあります。)
→しばらくウロウロした後、諦めてバツ悪そうに戻ることが多いと思います。
(そこまでして信頼関係が深まれば、何かしら理由をつけて戻ろうと提案すれば、了解してくれることが多いです。)
以上は、あくまでも参考例ということでお伝えしましたが、絶対的な正解はないと思います。
これまで2回にわたってお伝えした、妄想に関して必要となる基礎知識、心構えを理解した上であれば、その場その場に応じて望ましい対応が取れるようになると思います。
精神科医 阿部正人