こんにちは。精神科医の阿部です。
みなさんは、つらい気持ち をずっと引きずるという経験はないですか?
その状態が続くと仕事ができなくなったり、人間関係が壊れたり、ひどい場合は、命を絶ってしまうこともあります。
そこまで ひどくはなくても、その後の人生で、つらい気持ち をずっと引きずって、その影響を日々受けて過ごしている方は結構いらっしゃいます。
また、多くの人が、行動を止めてしまう原因は、失敗した時に感じる、つらい気持ち だと言われています。
これを克服することができたら失敗を恐れず、いろんなチャレンジができるようになると思いませんか?
それにより、どんどん、成長していくでしょう。そして、楽しい経験もたくさんできるでしょう。
多くの人が試みる方法として、「つらい経験を忘れようとする」というのもあります。
しかし、実際には、なかなかうまく行かないものです。
◆脳は、「○○するな」という命令には従わない
人間の脳は、あらゆる命令には従いますが、「○○するな」という“否定の命令”には従わない、という特徴があるからです。
簡単な実験をしてみましょう。
次の文章1,2を読んだ後、それを順番に実行してみてください。
1. 目を閉じてください。
2.「ピンク色の象を、絶対に絶対に、思い浮かべないで下さい。」
どうですか? 2番めの指示に従えましたか?
ピンク色の象は、消えないですよね。
「○○をしないで」といった時点で、脳は○○を認識し、自動的に考え始めてしまうからです。その後で、それを止めようとしても無理です。
★それでは、『つらい気持ちを短時間で切り替える方法』お伝えしたいと思います
まずは、大まかな流れから。
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1.つらい感情を静かに見つめます。
2.“感情”の波が去るのを待つ。
3.感情が落ち着いたところで、次の質問を自分にします。
① なにがあったの?
② これによって得られたメリットは何?
③ これから、何を学んだの?
④ 今後、あなたは、どう行動するの?
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つらい気持ち を感じている時は、あれこれ考えても無駄です。
“思考”と“感情”とでは、“感情”の方が、圧倒的にパワーが強いため、“思考”が機能しないからです。
ここであれこれ考えるとかえって混乱し、第2、第3の感情の波がやってきます。
ですので、“感情”→“思考”の順に対応する必要があります。
そこで、つらい感情が出てきた時、次の3つのステップを踏むのです。
(1)「“感情”を静かに見つめ」
(2)「“感情”の波が去るのを待つ」
(3)「“思考”の力を使い、つらい経験に対して対応する」
それぞれについて説明します。
◆(1)「“感情”を静かに見つめる」
『大事なのは、“感情”には抵抗せずに、ただ認識さえすればいいのです。』
しかし、始めのうちは、静かに“感情”を見つめることは難しいかもしれません。
一般に “感情”=“弱いもの”、“ネガティブ”と考える傾向があり、無意識のうちに、抑圧していることが多いからです。
「自分は、そんな弱い心を持った人間じゃない」という感じで。
最初、難しいようなら、自分の体の変化にフォーカスを向け、起こっていることをただ、受け入れるようにして下さい。
例えば、あ、心臓がドキドキしているな。とか、口の中がカラカラになっているな。 など。
この時、決して、善悪の評価をしてはいけません。この時は、そもそも“思考”が機能しませんから、考えたり、ましてや、行動することは避けてください。
混乱するだけです。
すると、それが引き金になって、第2、第3の波がやってきます。
これにより、つらい感情がドンドン 長引いてしまうのです。
◆(2)「“感情”の波が去るのを待つ」
大事なことは、『大きな波も やがては消え去る。』ということを認識することです。
どんな激しい怒りですら、ずっと続けることは不可能です。
それを信じて、感情、または体の変化にフォーカスしてひたすら、待ってください。
もし、その場にいることで、あまりにもつらくて何らかの行動をとってしまいそうでしたら、その場を離れることも大事なことです。
◆(3)「“思考”の力を使い、つらい経験に対して対応する」
『感情の波が過ぎ去った後に “思考”の力を使い、残りの影響を解消する。』
つまり、
『“思考”の力を使い「“つらい経験”の意味づけ」を変えるのです。』
そのために、
この4つの質問をします。
①なにがあったの?
②これによって得られたメリットは何?
③これから、何を学んだの?
④今後、あなたは、どう行動するの?
この質問により、これまで、全くフォーカスしていなかった部分 (メリット)に意識を向けるのです。
どんな出来事でも、「自分にとってメリットとなる部分 」が必ずあります。
そこに気づくことで、気持ちに余裕が生まれます。
場合によっては、自分の成長にもつながり、その一見つらい経験に対しても 感謝の気持ちが沸き上がってくることさえあります。
学んだことをもとに、今後の行動に意識を向けることができれば、つらい気持ちはいつしか、消えていきます。
★
以前、不定愁訴が続くというので内科から紹介された70代の女性を診察したことがありました。全ての検査で異常がないのに良くならないというのです。
お話を聞くと、その方は最愛の夫を亡くし、それ以来ずっと毎日 泣いて過ごしているということでした。
表情は乏しく、ずっと うつむいたままです。
少しリラックスしてもらったあとに、『夫を亡くしたことのメリット』を考えてもらうために、「生前の旦那さんには、何か欠点はありませんでしたか?」とお聞きしました。
少し驚いた様子で、それでも一生懸命考えてくれました。
しかし、
「彼は、優しくて何でもできて、完璧な人でした。悪い所なんかまったく思い浮かびません。」との一点張りで、良いところしか思い出せないとのことでした。
しかし、よくよく話を聞いていると、生前は、“あまりに完璧すぎて”一緒にいると、“気を使いすぎて疲れていた”ことがわかりました。
そして、今は、“気を使って 疲れることがなくなっている”というのです。
それからは、「そういえば、あの人、少し気難しいところもあったわよね~。」と、一緒に来たお姉さんとケラケラ笑い合っていました。
見る見るうちに表情がイキイキして来ました。
「メリットなんかないはず」と思っていると、人間の潜在意識は、それに矛盾しない記憶だけを引き出したり、場合によっては、そのように記憶を作り変えてしまうことさえあります。
今回お伝えする方法は、とても効果的なものですが、いきなり使うことは少し難しいかもしれません。
特に、感情を静かに見つめることは、少し練習が必要かもしれません。
日々 ちょっとしたつらいことがあったら、貴重な練習の機会だと思って、練習してみてください。
いざという時に、きっと大きな力を発揮してくれますよ。
他に、これに関連した記事がありますので、参考にしてみてください。
・参考 嫌な気分になった時に
精神科医 阿部正人