ご家族で精神科通院中の場合、例えば、息子さんの主治医がとても良い先生なので、自分もその先生に診てもらいたいと思うことがあると思います。
これは内科や外科など身体科ではごく普通にあることです。
しかし、精神科となると心を扱う性質上、いくつか考えるべきことがありますので、今回は、これに関して書いてみます。
★メリットについて
家族関係が症状に影響している場合、情報の取得が効率的に行えることから、“うまくやれば”環境調整がスムーズに行え、治療が進みやすくなります。“うまくやれば”と但し書きしたのは、これは両刃の剣で、後に詳しく伝えますが、治療を難しくする原因となりうることもあるからです。
★デメリットについて
自分にとって良い先生ということは、他の患者さんにとっても良い先生である可能性が高く、患者さんが集中していることが予想されます。つまり、たとえ予約制だとしても、待ち時間が長いことは覚悟する必要があるかもしれません(一人あたりの診療時間が長くなる傾向があります)。
★特に大事なこと
状況によっては、患者さんが主治医に本心を全て話せなくなる状況が生まれる可能性があるということです。
これは、精神科診療では、他の科の診療よりも、主治医と患者さんの心理的な距離が近いものになっていることが影響しています。
仮に、Aさんが主治医C先生に診てもらっているとします。その後、Aさんと同じ家族のBさんが、C先生に診てもらうことになったとします。この時、Aさんは家族に絶対に知られたくないこと(家族内の人間関係であることもあります)で悩み、そのことでC先生の診察を受けているとしたらどうでしょう。
医師は、個人情報の保護の義務があり、精神科医は治療の性質上特に気を使っています。そのため、診療で得られた情報は外に漏らすことはありません。
しかし、こうした状況では、Aさんは、Bさんについて主治医C先生にこれまで通り本心から話すことができるでしょうか?
Bさんと主治医C先生の関係から、C先生を通し、Bさんに伝わってしまうのでは?と無意識に感じ、多くの場合、本心から話せなくなってしまいます。主治医C先生の背後にBさんを感じてしまい、治療が進まなくなってしまうのです。
もちろん、同じ家族内でも、こうした問題にならないこともありますので、全て支障があるとは言えません。
★実際の対応
主治医は以上のようなデリケートな内容について、現在の治療状況、治療方針をもとに総合的に判断することになります。
ケースごとに検討した結果、メリットが大きく、治療可能だと判断される場合、診てくださる先生もいますが、同じ家族の人は診ないと決めている先生もいるようです。
(実際、診療上、難しいと判断した場合、その理由を説明することで、家族の人間関係について何らかの影響を及ぼしかねないこともあります。そのため、同一家族の患者さんは一律診ないとすることも、ある意味やむを得ないことかもしれません)。
★依頼する時の話の進め方
依頼しようと考えた時、主治医に相談することになりますが、その前にお勧めしたいことがあります。それは、事前に、受付のスタッフや看護師に、「同じ家族の患者さんを診ているケースがあるかどうか」聞いてみることです。これにより、大まかなことがわかり、患者さんにとっても、先生にとっても時間の短縮になるからです。お願いできそうなら、引き続き、実際の依頼の仕方について指示を受けて下さい。