発達障害の人とのコミュニケーションについて-コミュニケーションの基本-

 

今回は、発達障害の方へのコミュニケーションについて、これまでに、ご家族に伝えてきた内容をまとめてみました。

 

結果的に、少し長くなってしまったので、まずは、理解しやすいように、【目次】で全体像を示してから説明します。

これからお伝えすることは、コミュニケーションの基本についての内容であり、一般の人にも応用できるはずです。 是非参考にして下さい。

【目次】

Ⅰ.コミュニケーションにおいて発達障害の人に起きていること。

Ⅱ.コミュニケーションの基本

1.基本的な考え方

2.ステップ(全体像)

(1)信頼関係を築き(=受け入れる)

(2)引き出す

(3)伝える。

3.具体的な方法

4.このコミュニケーションを行うことの効果

(1)コミュニケーションの精度が高まり、こちらも楽になる。

(2)相手のエネルギーが高まる。

(3)相手の評価が高まり、自尊心が芽生える。

(4)あなたが大切にされる。

5.これをやらないとどうなるか

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Ⅰ.コミュニケーションにおいて発達障害の人に起きていること。

一般に、人は、自分の主張を、自分のペースで伝えようとします。(そのため、相手の言うことにはあまり意識を向けない傾向があります)そのため、コミュニケーションでは、いかに自分の主張が通るかに全精力が使われ、互いにかなりのストレスを感じることが多いものです。

こうした中、発達障害傾向のある人は、独特なこだわりがあり、自分の思考のパターンやペースから外れたことに対しては、極端に許容範囲が狭くなっています(理解に時間がかかってしまうことや、全く理解できないことも)。そのため、コミュニケーションにおけるストレスは膨大となり、表面上は、理解しているように見えても、実際には理解度が低く、ミスが多いということ起こりえます。場合によっては、パニックになる、癇癪を起こすということもあります。(結果として情緒不安定になったり、自分を責めて自己嫌悪に陥り、うつ状態になることが多いです。あまりにストレスの大きい状態が継続すると、幻覚妄想状態を呈することもあります。)

このような状況を理解した上で、適切なコミュニケーションをとることで、状態を改善することが可能になると考えています。

 

Ⅱ.コミュニケーションの基本

1.基本的な考え方

人間は誰でも、本来、人から認められたい、理解してもらいたいと思う本能があります。

自分を非難したり、間違いを指摘する内容の発言を受けると、多くの人は、ネガティブな感情が起こることはわかりやすいと思います。

しかし、それ以外でも、例えば、相手から自分では思いもつかない素晴らしいことを説明された時、または、何かを自発的にしようとして、その前に、相手からそれを指示された時にも、ネガティブな感情が起こることがあります。それは、その時の心理的な余裕、信頼関係により大きく左右されます。 そして、ネガティブな感情が起きると、一般に脳のIQが下がりますし、聞こうとする意欲も落ちるので、説明したことが十分に伝わらなくなってしまいます。

つまり、伝える時の相手の心の状態がとても重要だということです。そのための、伝わりやすい順番、タイミングがあるということです。

まずは、相手を理解することで、相手の本能を満たして心を開き、その後で、自分を理解してもらう(=つまり、自分の考えを聞いてもらう)。

これがすべての基本だと考えています。

具体的に、何かを伝えようと思ったら、まずは、相手の話をよく聞き、相手を理解し、いい気持ちにして、自分を信頼してもらうことに専念することが大切です。

 

 2.ステップ(全体像)

(1)信頼関係を築き(=受け入れる)

(2)引き出す  

(3)伝える。

(1)と(2)はほぼ同時のこともあります(引き出しながら信頼関係を築く)。

 

(1)信頼関係を築き(=受け入れる)

 人間は、自分が喋りたいことを喋り、相手が理解を示してくれることほど嬉しいことはありません。容易にわかると思いますが、生まれながらにそうできているからです。

まずは、相手の人にこれを実感させてあげることです。

 一度、どっしりと構え、「まずは、相手をしっかりと受け入れるぞ!」という態度で、会話に望むようにしてみましょう。

「まずは、相手に十分話させて、こちらでも理解に必要な助け舟を度々だして、理解されたという感じを味わってもらい、楽しい時間を過ごしてもらうことです。

※補足

信頼を勝ち取ることの意味

一度、相手からの信頼を勝ち取ることができれば、

①相手が、あなたへ対する、防御の壁を下げますので、会話中の相手の抵抗が一気に減ります。

(相手は、自分の正当性を証明する必要がなくなるため、こちらの発言を遮って、我先にと話すことがなくなります。)→会話自体スムーズになります(相手の人も、容易にこちらの発言に耳をかたむけてくれます)。

②また、相手のコミュニケーションのパターンが見えてくるので、より理解しやすくなるというのもあります。

(これまでのように、自分の考えを伝えようという一点に集中している場合は、何度も繰り返し見せている相手のパターンに気づけないばかりか、気づいても記憶に残らないので、学習できず、何度も何度も、同じパターンで辛い思いをすることになります。→しかし、ここに集中することで、それへの対策が見えてくるので、次回、それに出会っても、あまり苦しむことなく対応できるようになります。)

 (2)引き出す

相手に質問すること

相手の話したいことに関して質問することは、

①相手は、自分の話を真剣に聞いてくれていると感じるので嬉しい。

②自分の話したいことを、より詳しく話せるし、それによって相手が理解したところを見るのは話し手にとって嬉しいものです。

③その質問によって、もっと話したかったことを思い出すきっかけを与えてもらうこともあり得ます。そうなれば、さらに話が発展することになるので、本人はさらに嬉しく感じます。

つまり、相手の話したことをより深く理解するための、支持的な質問は、二重にも三重にも相手にとって嬉しいものです。この感覚、他では味わえない感覚を与えて、できれば中毒にするくらいにしようと考えてみましょう。これが出来たら、相手は、あなたなしにはいられなくなります。あなたのことを第一優先にするようになります。(なぜかというと、このような対応をしてくれる人は、他にはまずいないからです。是非、あなたが、それをしてあげて下さい。)

発達障害傾向のある人は、先程も言ったとおり、こうした経験が極端に少ないので、これが出来た時の効果は絶大です。おそらく、学校や会社でも、そうしたことが原因で、ストレスが多く、ミスも多いのだと思います。

例えば、家庭で、こうした対応をすることで信頼関係が強まり、リラックスできるようになれば、そのストレスが解消されます。そうすれば、家庭の外での効率も改善するでしょう。なにより、家にいることが楽しくなると思いませんか(家族みんなが)。

 (3)伝える。

相手に、何かを伝えるのはその後と考えましょう。いくら正論や、大先生の素晴らしい理論を伝えても、それだけでは、なんの解決にもなりません。もし、内容自体できまるものなら、世の中の多くの問題は、とっくに解決しているはずだと思いませんか?

それは、多くの場合、それを伝えた時、相手の中では、心のシャッターを降ろし、受け入れる態勢になっていないからです。

大事なのは内容より、相手の心の状態です。そして、そこに大きく影響する、伝える時の状況、タイミングです。正しいタイミングで伝えることで、相手は受け取る準備ができるので、最善の状態で、効率よく吸収します。つまり、こちらが伝えたいことが十分に伝わるということです。

 

3.具体的な方法

①相手が言った内容に全神経を集中して、何を言おうとしているかに思いを巡らすことです。(ここでのポイント:こちらが次に何を言うかは考えない)。

②話しやすい環境を作り、とにかく喋らせる(「そうだね」などと言い、うなずきながら。)ようにしましょう。

③相手の言いたいことを引き出したり、確認するためにだけ、適度に質問します。(「それは〇〇ということ?」と自分の理解した内容を伝え、確認する。)

※この間、それ以外の質問、例えば、相手の話を聞いてひらめいたこととか、自分が日頃思っている質問、考えが浮かんできたら、メモしておき、ここでは伝えないようにしましょう(それは、相手のことが理解できるようになってからの話。)。ここでは、相手の話を自分だけの関心で、遮らないことが大切です。

④相手の反応を元に、微調整を繰り返します(フィードバック)。

⑤相手の話したいことが十分引き出され、信頼関係ができた所で、こちらの言いたいこと、メモしておいた質問を伝えます。

(この時、相手の表情を観察し、理解しやすい伝え方を考慮しながら。)

 

4.このコミュニケーションを行うことの効果

(1)コミュニケーションの精度が高まり、こちらも楽になる。

相手の発言に集中することにより、相手のパターン(発言内容と、意図していることの関係)が見えてくるので、相手の発言内容を理解する精度は高まります。

それに連れて、こちらが要するエネルギーも減ってきます。→こちらのエネルギーが増え、同時に、相手との信頼関係が強固になってきます。

(2)相手のエネルギーが高まる。

こうして安心してなんでも話せるという関係ができてくると、相手は、これまでのように、自分の正当性を示すこと、理解してもらうことに、過大なエネルギーを使う必要がなくなります。→相手のエネルギーも増える。リラックスして、余裕を持って、あなたの話が聞けるようになるのです」

※これまでは、どうしたら、自分の優位性を示せるか、あなたはすごい、と思ってもらうことしか、頭にない状態がほとんどです。おそらく、話していてもあなたの話はほとんど聞いておらず、次に何を言って説得しようかと、それだけに集中し、お互いに無駄にエネルギーを浪費しているのです。

そんな状態のため、いくら素晴らしい内容を伝えられても、それを受け入れようとは決して思わないのです。

 (3)相手の評価が高まり、自尊心が芽生える。

こうして相手のエネルギーが増えることで、家の外でもこれまで以上に余裕を持って生活できるようになりますので、周りからの評価が良くなります。いろんな意味で良い効果が得られます。

(4)あなたが大切にされる。

相手は、現状が変わったのは、適切なコミュニケーションをしてくれたあなたのおかげだとわかるので、あなたをより大切にすることになるでしょう。

 

5.これをやらないとどうなるか

いくら相手のためと思って、たくさんのことを伝えても、話が伝わらないばかりか、やればやるほど、お互いの信頼関係は壊れ、エネルギーも浪費し、何も良いことはありません。お互いにエネルギーが低下した状態が続くと、何かをきっかけに、不幸な出来事に発展する可能性も否定できません。

 

以上です。

内容自体、言われてみれば、特に目新しいことはないかもしれません。でも、いざ実践となればそれほど容易ではないと思います。意外と大きなエネルギーが必要となることがわかるかもしれません。

しかし、実際に効果のある方法ですので、少しずつ、取り入れてみてはいかかでしょうか?

精神科医 阿部正人

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