うつ病患者さんご家族へのアドバイスシリーズ第4回「精神科医療の概略」

「うつ病患者さんご家族へのアドバイスシリーズ」として、関連するテーマごとに記事を書いています。

これまでの経験を踏まえ、患者さんの改善に効果的だった対応について書きます。うつ病患者さんを想定して説明しますが、基本的なことは、他の患者さんにも応用できると思います。


今回は、第4
回目「精神科医療の概略」です。

——目次——-

1.精神科治療における基本的なことについて

2.精神科治療における診察について

3.精神科治療における入院治療について

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まずは、大切なポイントから。

 

1.精神科治療における基本的なことについて

どのような疾患でも、表面的な状態よりも、その背後にある原因を調べることが重要です。

例えば、うつ状態の症状で受診した場合、一見して、うつ状態が激しく、うつ病が疑われても、その背後に別な精神疾患(統合失調症、不安障害など)、身体疾患(脳の疾患や、甲状腺機能低下症など)が隠れていて二次的に激しいうつ状態を呈していることもあります。

(人は、身体的、精神的に何らかの疾患にかかれば、それだけでも気分が落ちこみ、うつ状態になることが多いものです。)

ですので、もし、明らかな身体症状がある場合は、当然ですが、そうでない場合にも常にこのことは意識しておく必要があります。

そのため、明らかな身体症状がない場合でも、初診で採血検査をする事が多いです。その結果、身体的異常を認めた場合、身体的治療を優先し、精神科診察は必要に応じて並行して行います。身体的異常が無い場合、引き続き、精神科診察を行います。

 

2.精神科治療における診察について

(1)精神科診察のポイント

身体的な原因について、精神科診察の前に行うスクリーニングで精査した後、精神疾患の有無、心因について詳しく評価します。

例えば、うつ状態を呈しているならば、必ず何かしらの原因、またはその症状を悪化させている要因があるはずですので、まずはその根本となる部分について理解する必要があります。

本人の抱える問題、悩み等環境に起因する要因が大きく影響していることもあります。しかも、心因は、既に本人が気づいているが他人に話せない事だったり、本人自身気づいていないことだったりします。(人間の脳は本人を守るため、あまりに本人に侵襲的な内容については、思い出さないように蓋をすることがあります)

ここで、いかに原因となる情報を正しく引き出すかが、後の診断治療に大きく影響します。

これは、患者さんと医師の共同作業であり、医師はなるべく多くの情報を引き出して整理して、診断治療に役立つように努めます。

 

(2)通院しても、症状がなかなか改善しない時に

①それまで、本人のみが外来受診している場合は、ご家族が受診し、最近の様子を伝えてください(本人同席が最善です。本人が、薬の増量を恐れて、症状を正しく伝えていない可能性があります)

外来の時間が限られている場合、メモ等にまとめて事前に渡すのも良い方法です。

本人がご家族の受診を拒否する場合でも、最低限、本人の状況を手紙や電話で主治医に伝えて下さい。

②通常の外来では、状況を伝えるには十分な時間をとることが難しい場合は事前に電話で、主治医の予定を聞いて、事情を話し、十分に時間の取れる時間帯を予約するのがよいでしょう。(患者さん、ご家族は、忙しい外来では遠慮して十分に伝えられない可能性があります。また、主治医も詳しく話せない可能性があります)

③現状に対する主治医の見立て、治療方針、について質問し説明を聞きます。

④主治医の治療方針について疑問があり、主治医とのやり取りで解消できない場合は、セカンドオピニオンの利用も検討してください。

 

(3)セカンドオピニオンについて

セカンドオピニオンとは、主治医以外の精神科医の診察を受け、その結果(診断、治療方針)を、主治医の治療に反映させるシステムのことです。

【セカンドオピニオンの具体的流れ】

①患者さんがセカンドオピニオンを希望する旨を伝え、主治医からの紹介状(診断名、治療経過、検査結果 治療方針)を作成してもらいます。(主治医に、紹介状の依頼をしづらい場合、電話で、受付の看護師にその旨を伝えれば書いてもらえます。)

②紹介状をもって患者さんが希望する他精神科医の診察を受けます。(一般にはセカンドオピニオン外来などの名称で保険診療外扱いです)

③診察後、患者さんはセカンドオピニオンの担当医より診察結果の説明を受けます。そして、診察結果は情報提供書の形で、主治医に送られます。

④患者さんは、セカンドオピニオンの結果を踏まえ、再度、主治医の説明(今後の治療方針)を聞き、それを元に、治療契約(今後の治療に対して説明を受け同意すること)を再確認することになります。

 

(4)転医(病院やクリニックを変えて、別な医師に診療を依頼する)について

転医を希望する場合、その旨を伝え、紹介状を作成してもらいます。これがないと、これまでの治療経過がわからず、転医先の病院で、以前投与されて効果のなかった薬剤を再投与される可能性もあり、治療上無駄が多くなります。また、紹介状をもらっておくことで、病院間の連携もスムーズとなり、メリットが大きいです。

★主治医に転医のための紹介状の作成依頼をしづらい場合は、電話で、受付の看護師にその旨を伝えれば書いてもらえます。但し、しばらく受診していない場合は、「最近の状況がわからないと書けません」といわれ診察が必要となることがあります。

 

3.精神科治療における入院治療について

(1)入院治療の適応について

うつ状態では、基本的にエネルギーが低下した状態なので、安心できる環境でゆっくり休養する事でかなり症状の改善が望めます。自宅でこれが可能であれば自宅療養で問題なく、医師の指示を受け、外来診療でOKです。

しかし、以下のような場合は、自宅療養ができない為、入院治療が必要となります。

①精神症状が原因で、周囲が対応できない場合。

・不安焦燥感が強く、安静が保てない。(本人が死にたい気持ちを訴えたえる状態、家族が目を離すと何をするかわからない状態では、一刻も早く専門医に相談し、入院を検討してください。)

・食欲低下などで栄養状態が不良。

・本人の症状がそれほど重くなくても、ご家族が対応できない場合も、入院適応となります。(例えば、高齢だったり、身寄りが近くにいないなど)

②周囲の環境が原因で、本人が安静を保てない場合。

・周囲が病気に対しての理解が低く、本人も周囲に気をつかってゆっくり休めない。

・家にいると本人の抱える問題について考える時間が多くなり、安静が保てない。

 

(2)入院治療のポイント

症状により、個室入院となりますが、基本、重症でなければ多床室(4人部屋とか6人部屋)での入院となることが多いです。

これにより、周囲の目が気になること、病院のルールに縛られることなど、本人にとってストレスが増えますが、それを上回るメリットを期待して入院治療を行うことになります。

ポイントは以下の通りです。

①まずは、入院に際し、入院の目的(どういう状態になったら退院か?)を明確にします(主治医とよく相談しましょう。それによって、入院中にやるべきことが明確になります)。

基本は本人の「体調」や「環境」が自宅療養できるレベルになったら退院となります。

ここで大切なのは、本人の「体調」はもちろんですが、それだけではなく、「環境」も大切な条件に入っているということです。もし、入院時に、自宅療養できなかった環境上の問題点がある場合、それが未解決のままでは、退院後症状が再発する可能性が高いからです。(例えば、家族の病気への理解が低いことが問題であれば、入院中に家族を呼んで、患者さんを含めて病気についての説明を行うなど)

②基本は休養を中心として、主治医の診察、検査、精神療法、薬物調整などを行います。

③エネルギーの充電が主要な目的であるので、多少動けるようになっても、無理しないで休養する。(コップの水を貯めるように、そしてコップの水が溢れる位になるまで待つイメージで。)症状の改善とともに、エネルギーが満たされ自然と動きたくなります。

④症状の改善状況に合わせて、少しずつ行動範囲を拡大し、試験外出、試験外泊を繰り返し、本人の自信、家族の安心感と、入院中の状態評価をもとに、全てがOKとなったところで退院となります。(家では、ある程度気が張っていて問題なく過ごせても、その後病院に帰ってから疲れが出て状態が悪化することもあるので。)

⑤退院後は、外来通院にて治療を継続します。

 

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