「引きこもりのお子さんと関わる上で、知識や経験以上に大切なもの」
前回に引き続き、
日頃、私が診療をする上で大切だと考えていることで、
引きこもりのお子さんと暮らすご家族にも役立つと思うことを書きます。
突然ですが、あなたは、ヘレン・ケラーのことは知っていますでしょうか?
子供の頃、誰でも一度は、彼女の偉人伝を読んだことがあると思います。
日本にも2度来ていますし、知らない人は殆どいないと思います。
三重苦(見えない、聞こえない、話せない)を克服した偉人です。
1歳半から突然高熱を伴う髄膜炎の後遺症として難聴、失明の状態となり、
話すこともできなくなりました。
その後は、全くしつけができない状態が続き、非常にわがままで、思い通りにならないと癇癪を起こす、全く手がつけられない状態になってしまいました。
両親は一緒に暮らすことに限界を感じ一度は施設へ預けることを考えるところまで行きました。
しかし、6歳の時に、縁あって家庭教師アン・サリバン先生(以下サリバン先生)の指導を受けました。その後、奇跡的成長を遂げ、ハーバード大学を主席で卒業し、世界的に活躍するようになったというのが大体のストーリーです。
引きこもり患者さんの診療を終えたある日、私は、ヘレン・ケラーのことを何十年かぶりに思い出しました。
と同時に、そう言えば、ヘレン・ケラーを指導したサリバン先生はどんな先生だったのだろうか?と素朴な疑問を感じました。
意外なことに、サリバン先生については殆ど記憶に残っていませんでした。
そして、少し調べてみてびっくりしました。
サリバン先生は、当時、盲学校を卒業したばかりで、障害児の指導経験はなかったそうで、ヘレン・ケラーを指導したのが初めてだったとのこと。
それだけでも驚きでしたが、なんと若干20歳でした!
これには衝撃を受けました。
記憶とはいいかげんなもので、私の中では、てっきり経験豊富な大ベテランの先生だと思っていましたので。
1880年代のことですので、今に比べたら、そもそも障害児教育に対する情報自体少なかったと思います。そんな状況で、サリバン先生は、自分を信じて試行錯誤の中でやり通し、結果、ヘレン・ケラーを偉人に育て上げることができたのだと思います。
情熱、諦めないこと、愛情、これらの持つ限りないパワーを感じました。
この物語は映画化されていますので、興味がありましたら是非見てみて下さい。
you tubeで見ることができます。
題名が「奇跡の人」(原題「The Miracle Worker」)です。
英語の表記を見ればわかります(Work:人に働きかけ、動かすの意)が、これはヘレン・ケラーではなく、実はアン・サリバン先生のことを題材にしたものであることがわかり、二重に驚きました。(当然、ヘレン・ケラーの物語だと思っていたので)
映画の中では、かなりのスパルタ的な場面もありますが、サリバン先生なりに、現状に対し仮説を立てて検証、修正を繰り返していたのだと思います。悩みながら試行錯誤している様子がよく描かれています。
途中、サリバン先生が「先生が必要なのはわたしの方です!」と言っていたのが印象的でした。
ヘレン・ケラーを一般の引きこもりの人と同じように扱うことはできないのは当然です。
しかし、このエピソードから何かしらのヒント、インスピレーションを感じてもらえれば幸いです。
教育に関わる全ての人に見てほしいと思います。