「精神科診療における医師と患者・家族のコミュニケーション(②対策)」―日本初の大規模調査結果をもとに―

今回も前回に引き続き、私自身が日頃から関心のある

「精神科診療における医師と患者・家族のコミュニケーション」について、ある興味深い調査結果をもとにお伝えします。今回は続編として、これへの対策についてお伝えします。

もし、前回の記事を読んでいない場合は、そちらを先にお読みすることをお勧めします。

→ 医師と患者・家族のコミュニケーション(①現状)」

精神科医療全般に関わる大切なことなので、じっくりと読んでいただければと思います。

 

前回の(①現状)編では、

医療におけるコミュニケーションは医学的知識と同等かそれ以上に大切である(特に精神科においては)にも関わらず、今回の調査結果で、患者さん・ご家族の3-4割(3人に1人強の割合)で、満足が得られていないことが判明したと述べました。

これは一見残念な感じもしますが、見方を変えれば、「コミュニケーションの改善により、治療効果のさらなる向上が望める」ということだとも考えられます。

 

より治療効果を高めるためにこれから必要と思われること

現在、精神科診療を受けていて、望むような効果がみられていないと感じている患者さん、ご家族の方は、(精神科医療を積極的に利用するということを考えて)ご自身で何らかの対策を取る必要があると思われます。

なぜならば、医療側で変わるのを待っていても、変わるまでは時間がかかりすぎるからです。

(医療制度はすぐには変わりませんので、結局は医師の自助努力に期待するしかありません。しかし、現在の医師の勤務状態はかなり厳しい状態であるため、現実的ではないと思います。)

一方で、患者さん・ご家族が変わろうと思えば、すぐにでもできますし、それに応じて効果も期待できるからです。ですので、可能性の低いことをただ待つのではなく自ら動いてほしいと思います。

 

大事なことは、

「まずは、患者さん・ご家族としてできることを試みましょう。主治医の変更はその後で。」

 

患者さん・ご家族の対応ですぐに思い浮かべるのは、

「理想の医師を探して、主治医を変更すること」かもしれません。

しかし、一口に理想の医師を探すといっても、これはなかなか難しいです。うまく見つけられたとしても、一般にそうした医師は忙しく新規の診察枠がなかったりします。

診察してもらえるとしても、そのような特定の医師に患者さんが集中することは精神科医療全体として考えて必ずしも良いことはないと思います(待ち時間の長時間化、医師の負担増大などの問題も)。

その前にまず考えてほしいのは、「コミュニケーションは、相手との関係性で成り立つものであり、あくまでも相対的なものだ」ということです。ということは、患者さん・ご家族の側で工夫することで良い状態に誘導できる可能性があるということです。まずは、患者さん・ご家族自身が工夫を試みる価値はあると思います。

そうはいっても、どうすればいいか?多くの方はここで諦めてしまうかもしれません。

 

これについて少し考えてみましょう。

幸い、今回の大規模調査の結果、医師―患者・家族におけるコミュニケーションにおいてどのようなことが起こっているのかある程度推測できました。再度、ポイントを書きます。

「医師の説明の量、質に対して十分と感じていない。そこで、医師に質問しよう思うのだが、何を聞いたらいいかわからないし、たとえ質問をしても求めている答えがもらえないと感じている。」

 

「医師への質問」が解決のための鍵だと思います。ここに気づき、精神科医をうまく利用してほしいと思います。

つまり、患者さん・ご家族の側で適切な質問をすることです。

そのために、事前に、質問の内容を考えることはもとより、質問しやすい環境を作る、質問の仕方を工夫する、前もってリハーサルする、その他必要な情報を得るために必要と思われることを全てやってみることだと思います。

その過程で、患者さん・ご家族自身で、病気に対しどこまで知っているのかどうなりたいのか、そのために何が必要なのかなどの理解が深まります。それだけでなく、患者さん・ご家族の熱意が自然に医師に伝わり、その後の状況の変化も期待できると思います。さらに、こうした積極性は必ずや患者さん自身の精神状態にも良い影響を与えるはずです。

これについて、以前書いた記事が参考になるかもしれませんので、それを紹介します。

「精神科医を効果的に利用する方法」

「精神科医を効果的に利用する方法(続編)」

 

こうして、患者さん・ご家族としてできる限りのことをしてみても、うまくいかないこともあるかも知れません。どうしても人間である以上、相性もありますし。

その場合に限り、主治医の変更を検討して欲しいと思います。

 

結果とし上手くいかかったとしても、自分なりに努力や工夫した後でしたら、理想的な医師にめぐりあう確率は格段にアップしているはずです。

検討を祈ります。

 

最後に、

現在、精神科医療はとても厳しい状況にあると思います。今後、医師をはじめとする医療者、患者さん・ご家族が、それぞれの立場でできることをやることで、状況がより良い方向に進むことを期待しつつ、そのために必要な情報発信を続けていきたいと考えています。

 

精神科医 阿部正人

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