自分の意見をはっきりと伝えることは結構難しいものです。
自分の意見を伝えることに関して、印象に残る患者さんがいました。
物忘れを主訴に受診された80代の男性です。
診察室に入った時は、ご本人は生気がなく、うつむいたままでした。
同伴の奥様に席を外してもらいテストをして驚きました。
なんと、集中力も十分あり、物忘れのテストでも正常範囲内だったのです。
診察の結果わかったのは、結婚後、何十年も 奥さんとの衝突を恐れて、自分の言いたいことが言えず我慢してきたということでした。
診察後に奥さんを呼び入れ、現時点では、特に治療の必要はなく、
まずは、ご主人が自分の言いたいことを 十分に言える環境が必要であると伝えました。
奥さんは、大変驚くとともに、少し安心したようで、「私も話しやすい環境を 作るように心がけます」と言ってくれました。
それを聞いたこの男性は、入室時とは別人のような イキイキした表情で
診察室を出て行かれました。
この方はその後、外来を受診することはありませんでした。
奥さんの理解が得られ、言いたいことが言えるようになったのでしょう。
自分の意見を自由に言えることの大切さを物語るものだと思います。
しかし、普通は、ここまで相手が変わることを期待することは、
難しいと思います。
周囲を変えることは難しいものです。
自分が変わり何らかの行動をしていくしかありませんし、
これが唯一確実な方法だと思います。
それでは、ステップ・バイ・ステップでお伝えします。
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①楽しく会話しているところを 毎日5分位イメージしましょう。
(できれば、相手のために何ができるかな? と考えてみましょう。)
②あいさつは、相手の目の付近を見ながら 行うようにしましょう。
話すときも それを心がけるようにしましょう。
③自分の感情を出す練習をします。
例えば、うれしいなど 感謝の気持ちを、感情こめて言葉に出すように心がけます。
④連想力をつける為に、日々一人連想ゲームをします。
○○といえば、△△。 △△といえば、… 。 といった感じです。
⑤毎日、定期的に時間を取って、話すようにします。
例えば、夕食の団欒の時に、その日あった楽しかったことなどを。この時、少しずつ自分の意見を 入れるようにします。そして、自分の意見の割合を徐々に増やしていきます。
⑥毎回、会話の内容を振り返ります。
反省点があれば、次回に生かすようにします。
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★イメージの大切さ
人間はイメージできないことは、実行できません。
すでに自分の中で、話せないイメージが出来上がっています。
そこから変えることが必要です。
★目を見て話すこと
次に相手の目の付近を見て話すように練習します。
目を直接、長い時間見つめるのはお互いにストレスになることがありますので、
目と目の間付近を時々見るのが良いでしょう。
初めは形だけで良いですが、慣れてくれば、目を見ることで相手の考え、状態などいろんなことが見えてきます。
★感情を出すこと
それができてから、自分の感情を出すという基本的で大切なところから始めます。
自分の感情は、意見とは違い、人間本来のものであり相手から批判されることがないので
やりやすいと思います。自分の感情を抑えがちの場合、相手の感情に気づきにくくなります。
★タイムリーに話題を出すこと
相手の話に関係のある話題を タイムリーに出すと話しが弾むので、
そのための練習として、毎日一人連想ゲームを行います。
相手の話題に関連して 自分の言いたいことを言えるようにします。
★自分の興味のあることを話す
食事の時間とか比較的余裕のある時に、
定期的に自分の興味のあることを話す段階に入ります。
日々の積み重ねが大切です。
是非、家庭内、会社、学校でも応用してみてくださいね。
精神科医 阿部正人