妄想のある方への接し方(第2回目)

今回は、「妄想のある方への接し方」(3回シリーズ)の2回目です。

 

・第1回目 必要となる基礎知識

・第2回目 ご家族が接する(話を聞く)時の心構え

・第3回目 実際の対応例

 

実際にご家族が接する時に必要な心構えについていくつかお伝えします。

 

 ①十分なエネルギーのない時は無理しないと決めましょう

基本、人の話を聞くことは大きなエネルギーがいることです。ましてや妄想をもっている相手の話を受容的に聞くことは特にそうです。ですので、疲れている時などは無理をしないと決めることも大切です。

(例えば、誰かほかに余裕のある人に対応をお願いするなど。ご家族が何人かいる場合は、一定の期間毎に持ち回りにすることも良いでしょう。)

 

②本人にとって安心できる環境を提供することに専念しましょう

妄想的な考えに支配されている場合は、大きな不安を抱えていることが多いです。

そして、そのストレス状況がIQを下げ、正常な判断を妨げ、妄想的な考えを強化していることもあります。(一般に不安や恐怖が強い場合、妄想的な考えも強まります。)

ゆっくりリラックスできる環境の提供が、それを和らげる効果を持ちます。

 

絶対に否定しない、意見やアドバイスも与えないと心に決め、相手の話に100%集中しましょう。

(=自分が、次に何を言うかを考えないで、ひたすら聞く)

大事なことは、「第1回目 必要となる基礎知識 ②妄想は絶対に修正不可能」でも述べましたが、相手を説得しようとすればするほど、自分は理解されていないと感じ、相手の心は離れ、大切な信頼関係も失われるということです。

 

意見やアドバイスも与えない、とは意外と思うかもしれません。妄想が出ている時点で、その妄想に関する限り通常の論理での対応は不可能です。意見やアドバイスは効果がないばかりでなく、「自分と違う意見の提示」=「自分の意見の否定」と取られ、信頼関係を壊す危険性があります。

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大事な考え方としては、

信頼関係を築くことを第一にして、相手のストレスを減らすこと、に尽きます。

 

そのためには、相手の状況、話している内容をこちら(聞き手)が理解しようとし、

そのことを相手に伝えることです。(相手に真実を伝えることではありません。)

 

(上記の対応で効果が不十分なら)「私達家族としてもどうしていいかわからないから、一緒に分かる人(専門家の先生)に教えてもらいましょう」というスタンスで接することです。

 

(しかも、悩んでいる事は本人にとっては大問題なので、それに対しご家族が解決策を見いだせなくても、それによってご家族が非難されること、信頼関係が悪化することはありません。一緒に悩み、理解してもらうことで信頼感を感じてもらうことが一番大切です。)

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まずは信頼関係を築いてみて、それでも効果がないことが確認できたら、すぐに専門家につなげるくらいの対応で良いと思います。

 

妄想それ自体ではなく、妄想の出現により現れた問題、悩み(例えば、不眠、不安感)に注目してそこへの共感を深めましょう。

具体的な方法としては

(1)患者さんの話す妄想内容についての真偽については一切触れず、そのような考えを持っていることで辛い思いをしていること(これは間違いのない事実です)に共感を示すようにします。

(2)それについて、自分ももっと理解して、一緒に対応方法を考えたいから、そのためにもっと詳しく教えてほしいという態度で接します。

 

結果的に、解決策が見つからないとしても、このような態度で接することで患者さんとの間に強い信頼関係が生まれ、患者さんは気持ちが楽になり、落ち着いてくることもあります。

また、専門家(精神科)への相談を提案した際、受け入れてもらいやすくなります。(精神科医への橋渡しもスムーズになります。)

 

⑤妄想は、決して特別な状態ではなく、“条件さえ揃えば、自分でも同じようになりうる”と思いながら、少しでも辛さを理解しようと考えて接してみましょう。

私達は理解できない状態の人を前にすると、知らず知らずのうちに違和感が生じそれによって見えない壁ができ、表情に出てしまうことが多いものです。

妄想のある人は、多くの場合とても敏感になっており、それを察知し信頼関係を築くのが困難になることがあります。

このように考えて対応することで、お互いに違和感が減り信頼関係をより効果的に築けると思います。

 

次回(第3回目)では、実際の対応例について述べます。

 

精神科医 阿部正人

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