今回から2回にわたり、私自身が日頃から関心のある
「精神科診療における医師と患者・家族のコミュニケーション」について、ある興味深い調査結果をもとにお伝えします。まずは、今回は現状について、次回はそれへの対策についてお伝えします。精神科医療全般に関わる大切なことなので、じっくりと読んでいただければと思います。
それは日本で初めて実施された、精神科医らでつくる研究チームの大規模調査結果です。
精神科を担当する医師の態度について、患者側に尋ねる調査は珍しく、とても貴重な報告です。(新聞に紹介記事が掲載されていたのでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません-2019年2月7日朝日新聞 生活面)。
これは、日本全国の患者さん(ほとんどが外来通院中)およびそのご家族を対象にしたアンケートを集計したもので、2つあります。
1つ目は、患者さんおよびご家族に無記名自記質問票を郵送し記入し返送してもらう形で行ったものです(無記名自記質問票式:回答者6,202人)。2つ目は、ネット上でアンケートサイトにアクセスしてもらい、回答を入力してもらう形で行ったものです(ネット式:回答者815人)。質問項目は同一です。
前者は、『「精神科担当医の診察態度」を患者・家族はどのように評価しているか-約6,000人の調査結果とそれに基づく提言-』として日本精神神経学会の学会誌に掲載されています。後者は、この論文の筆頭著者の夏苅郁子医師の報告サイト(http://natsukari.jp/result/ 精神科医の診察能力、態度、コミュニケーション能力についてのアンケート)に結果が公開されています。
ここでは、回答者の分布がより実際の分布に近い後者(ネット式)をもとにお伝えします。(前者は、実際よりも、統合失調症の患者さんの割合が高くなっています)
精神科診療における医師と患者さん・ご家族のコミュニケーションに関し、特に重要であると感じたことを以下にピックアップします。(あくまでも、患者さん、家族の主観的な感じ方であることに注意が必要です)
医師―患者・家族間のコミュニケーションの問題について
1.説明の量について(病名、薬、回復の見通しなど)
ご家族の39.1-42.2%が、十分な説明がないと感じている。
(患者本人では、37.0-41.0%が同様に感じている)
2.説明のわかりやすさについて
ご家族の26.9%が、「わかりにくい」と感じている。
(患者本人では、27.5%が同様に感じている)
3.医師への質問について
ご家族の26.3%が、「何を質問していいかわからない」と感じている。
(患者本人では、32.9%が同様に感じている)
4.医師へ質問した際の医師の答えについて
ご家族の29.4%が、「はっきりした答えがない」と感じている。
(患者本人では、32.1%が同様に感じている)
(上記のネット式での結果は、無記名自記質問票式よりも、医師に対して厳しい評価になっていたとのこと。)
以上をまとめると、以下のことが言えると思います。
『約3-4割前後の患者さん本人・ご家族が医師とのコミュニケーションに対して不満を感じている。つまり、医師の説明の量、質に対して十分と感じていない。そこで、医師に質問しよう思うのだが、何を聞いたらいいかわからないし、たとえ質問をしても求めている答えがもらえないと感じている。』
これまで、長年状態が不変であった患者さん・ご家族に対し、必要な情報を理解できるようにお伝えすることで症状が改善するケースをたくさん見てきました。
【参考】相手の理解に合わせて必要な情報を提供し安心を与えることで症状が改善したケース
→「ご家族の積極的な関わりで、外出できるようになった引きこもりのケース」
それゆえ、医療におけるコミュニケーションは医学的知識と同等かそれ以上に大切であり、特に精神科においてはそうであると実感しています(医療者―患者さん・ご家族、および患者さん―ご家族のコミュニケーション)。
それにも関わらず、今回の調査結果で、患者さん・ご家族の3-4割(3人に1人強の割合)で、上記のとおり満足が得られていないことが判明しました。
これは一見残念な感じもしますが、見方を変えれば、「コミュニケーションの改善により、治療効果のさらなる向上が望める」ということだとも考えられます。
次回(②対策)は、こうした現状への対策について述べます。
→精神科診療における医師と患者・家族のコミュニケーション(②対策)